【文章サンプル】

 

 

 

〜中略〜

 

花壇の花は、ジャックが自分を卑下し、気持ちを沈ませていく間にも、
当然のように花弁を揺らし、風と遊んでいる。

 

「白……黄……桃……青……」

 

ポツリと、ジャックが呟く。
目の前に映る花の色を口にしただけだ。

教師達が色の配分も考えず、適当に種を蒔いたのだろうことは、想像に難くない。
黒が基調のジャックが彩色を想うなど、なかなか珍しかった。

しかし、花の色を感じて和んでいるわけではない。

 

それは、彼の心を不安定にさせる、危険な発音だった。

 

 

 

花を植えよう――そう提案したのは、誰だったか。

 

 

 

きれいな色は、きれいなだけの色は、嫌いだ。

なんの俗にも染まっていない、そう誇示しているように見える。

だから、白はまさに、偽善のようだ。

あとから、どうとでも色を変えられる、そんな無垢さにヘドが出る。

可愛いなんて。

優しいなんて。

どこの平和主義者が教えたんだ。

 

 

ジャックは、両手を自分の顔にあてがった。
子供にしては、肉付きも血色も悪い、不健康な顔だ。

色白な顔には、五つの赤色が伺える。
両の瞳に二つ、額と頬に刻まれた逆三角形の印が三つ。
中でも、額と頬の赤い印は、ジャック本人もその意味を探しているという、謎の刻印だ。

 

 

 

〜中略〜